まず、怪我をして手術の経験のある投手の投球フォームを見てみましょう。
@松坂投手
2011年6月、右肘の故障でトミー・ジョン手術を受けました。
※トミー・ジョン手術(英: Tommy John Surgery, 側副靱帯再建手術)は肘の靱帯断裂に対する手術術式。断裂した肘の靭帯を切除して他の部分(グラブを持つ側の手首の所の靭帯が多いようです)の正常な靭帯を移植する手術。
1974年に最初にこの手術を受けたトミー・ジョン投手にちなんで命名されています。
トミー・ジョンは通算288勝し、手術後も164勝を挙げ、46歳まで現役だったそうです。
投球では側副靱帯の内、尺側側副靱帯(別名、内側側副靱帯)が損傷しやすい。
投球時、尺側側副靱帯は伸び、力がかかり、悪いフォーム、変化球の投げすぎ、で損傷しやすい。

松坂投手の大リーグデビュー戦(ロイヤルズ戦)の投球フォーム、95マイル


まず、気づく点を挙げてみましょう。
●軸足(右足)の蹴りが弱い点です。蹴った後、右足が引きづられるような投げ方です。
●投球が終るまで背番号が良く見える点です。腰が1塁方向に回転していきません。上体を前に倒す、つまり右肩の縦回転だけで投げています。結局、下半身を利用した投げ方ではなく、肩、肘に負荷のかかる投げ方をしていると言えます。
肩、肘への負担を減らすには右肩の横回転を増やす必要があります。そのためには、打者から背中がよく見えるまでもっと上体を捻ることが必要です。
A五十嵐亮太投手
2006年27歳、右肘靭帯断裂で、トミー・ジョン手術を受ける。2007年は登板なし。
五十嵐亮太投手、2004年25歳、ヤクルト時代に3球連続158キロを記録、その3球目


五十嵐亮太投手も松坂投手に似た投げ方で、背番号がずっと見えており、上体を前に倒す、つまり右肩の縦回転だけで投げています。
松坂投手、五十嵐投手に共通(日本のプロ野球投手の多くに見られる)なのが、投球後半に前脚の軸が垂直ではなく、3塁側に大きく傾いて腰のあたりが大きく3塁側に流れる点です。
また、両投手とも前足が着地する前に右腕がすでに振り出されています。理想は前足が着地するか、その寸前まで右腕は振り出さないことです。
松坂投手、五十嵐投手とも、右腕の振り始めが早すぎるためか、あるいは体が早くからホームプレート方向を向くためか、前足の着地位置がホームプレート方向から一塁側にずれて着地しています。そのために前脚の軸が3塁側に傾いています。
Bステファン・ストラスバーグ(ワシントン・ナショナルズ)
MLBドラフト史上で『最高の選手』」と話題になり、ワシントン・ナショナルズに入団。2010年6月8日、大リーグデビュー。デビュー戦で14三振を奪って初勝利。 速球(フォーシーム)の平均球速は97.5マイル(時速157キロ)であった。
しかし、8月には右肘を痛め、すぐにトミー・ジョン手術を受けました。
復帰は2011年9月。2012年は15勝6敗、防御率3.16の好成績を残しましたが、肘への負担を考慮して160イニング制限がかかり、この年は159.1/3イニングで終了。ポストシーズンで登板できませんでした。
ストラスバーグの投球フォーム


ストラスバーグの投球フォーム(横からの映像)


ストラスバーグのテイクバックは小さく、投球モーションは速く、しかも球速が90マイルの後半が出て、非常に打ちづらい投手です。制球も悪くはなく、四球率/9回は2012年度が2.7、通算が2.4で、三振奪取率/9回は2012年度が11.2で大リーグの先発投手ではタイガースのシェルザーの11.08を抜いてトップ(規定投球回数には達せず)です。問題は肘、肩に負担のかかる投球フォームをしていることだけです。
松坂、五十嵐投手と同じく、上体の捻りが少ないためか(打者に背中を十分に向けていない)前足が着地する前から右腕が前に振り出されていて、下半身を有効に利用できておらず、肩、肘を中心に投げています。体が正面を向いた時点でもまだ肘が曲がっいます。肘への負担が非常に大きい投げ方をしています。
怪我をしない投球方法
投手の怪我は肩、肘が多く、肩、肘に負担をかけない投げ方をすることが大事です。そのためには、肩、肘よりも強度のある下半身を十分に使う必要があります。
その具体的な方法
@上体を大きく捻り(打者に背中を十分に向ける)、軸足(後ろ足)を強く蹴る
具体例:上原投手、足の向きを前に素早く向けて爪先で強く蹴るのがポイント

強く蹴るほど、体が前に移動し(直線運動)運動エネルギーが得られます。後はこのエネルギーをいかに(投球メカニクスにより)ボールのエネルギーへと変換するかです。そのためには全ての球技に共通な速いスウィングの動き(回転運動)に変換するかです。
具体的には、いかに体が前に動く直線運動を、ボールを投げる側の肩の速い縦回転、横回転に変換するかです。選手により、縦回転が主体の投手(ノーラン・ライアン、ジャイアンツのティム・リンスカム、野茂英雄)もいれば、横回転が主体の投手(ランディ・ジョンソン、ウォルター・ジョンソン、ブレーブスのクレイグ・キンブレル、現在の上原投手)、その中間(多くの投手がこれに相当)と大リーグの投手は個性的で千差万別です。
時代の流れとしては、オーソドックスな縦回転主体から、大リーグでは横回転を多く取り入れた投球フォームが主流になっています。その点日本のプロ野球の投球フォームは時代遅れの感じがします。球速で言えば10キロ弱、損をしているみたいです。日本人大リーガーで成功した人はみんな横回転を取り入れたフォームに修正しています。スキージャンプで言えばV字ジャンプに転向している感じといえます。
縦回転主体では、頭が上下に動いて制球が悪くなるからです。横回転主体では今度は、頭が一塁側に動きますが、こちらの方が制球への悪影響は少ないようです。
肩の縦回転

肩の横回転

肩の縦回転が主体
具体例:ティム・リンスカム

肩の横回転が主体
具体例:上原投手、ウォルター・ジョンソン、サイ・ヤング
上原投手

ウォルター・ジョンソン、1907年から1927年まで活躍した剛速球投手。21年間で通算417勝279敗、生涯防御率2.17、3508奪三振、110完封
肘をほとんど曲げないので肘の故障とは無縁の投球フォームです。現役中も故障は無かったようです。

サイ・ヤング、1890年から1911年まで活躍した投手で、22年間で511勝316敗、生涯防御率2.63、2803奪三振、1955年死去後の翌年1956年に彼に因んでシーズンの最優秀投手に送られるサイ・ヤング賞が制定された。
動画はないが、下の静止画はサイドスローです。サイ・ヤングはサイド、スリークウォーター、オーバーハンドと投げ分けたようです。サイ・ヤングも故障をしたことがないらしい。

A前脚は軽く曲げて着地し、直ぐに強く蹴って伸ばす
前脚で下半身の動きを完全に止める、つまり腰のあたり(体の重心)を一旦完全に止める必要があります。
具体例:ジャスティン・バーランダー

B前脚は垂直かやや1塁側(右腕)に傾ける。
前脚の軸上に体の重心が来るような姿勢になります。回転軸上に重心がくるときが回転速度が最大になるからです。
傾きが大きいほど上体は一塁側に回転しやすくなり、右肩の横回転が速くなる。
具体例:デトロイト・タイガースのジャスティン・バーランダー、アロルディス・チャップマン(左腕)、黒田投手
ジャスティン・バーランダーの前脚は1塁側に傾く

アロルディス・チャップマンの前脚は3塁側に傾く

黒田投手の前脚は1塁側に傾く(2012年になってその傾向が強い)

垂直な場合は頭が左右に大きく動かないので制球は良くなります。
具体例:ヤンキースのマリアーノ・リベラ、ジャイアンツのマット・ケイン、上原投手
マリアーノ・リベラの前脚は垂直

マット・ケインの前脚は垂直

上原投手の前脚は垂直(最近は1塁側に傾くこともある)

C前足が着地するか、その寸前まで右腕を振りにいかないで我慢する
この意味する所は、前が着地してから、上体が前に倒れる速度、上体の1塁方向への回転速度いずれも急激に速くなるためです。腕の振りが早すぎると、この2点を利用する時間が短くなり、腕を振り出す速度が加速できず、肩、肘に力を込めて腕を振り出すために故障につながります。
具体例:アロルディス・チャップマン(106マイル、時速171キロ、球場のレーダーガンの数値)


チャップマン投手は前足を着地するまで、腕を振り出し始めていません。着地直前に、肘から手にかけての部分(前腕)を起こして手の位置を高くしていますが、肘から肩にかけては動いていません。
D前足が着地する前から、体がホームプレート方向に早くから向く(別の言い方では体が開くこと)ことがないようにする
そのためには、右投手の場合、グラブを持っている腕、肩を3塁方向に突き出すようにし(結果として背中がホームプレート方向に向く)、前足の向きを着地直前まで3塁方向に向けておく。
具体例:ヤンキースの大リーグ史上最高のクローザーと言われているマリアーノ・リベラ

以上、怪我をしないための具体的な方法を挙げましたが、これは同時にいかに速い球を投げるか、いかに制球を良くするかという、方法でもあります。
投球というといかに腕を強く振るかというイメージがありますが、下半身をいかに有効に利用して、いかにして腕を強く振らないで済ますかということが大事です。
投球は軸足(後ろ足)を蹴って、前足を着地した時点で、その出来不出来が決まると言っても過言ではありません。それまで腕を振りに行ってはいけないのです。上にあげた5つのポイントが守られていれば、肩が、前脚の軸上の腰のあたりを中心として、速い円軌道を描くのでボールを投げる側の腕には遠心力が働き、楽に腕は振り出されます。
普段それほど力入れずに投げた時代の選手だから怪我とフォームの関係を結びつけるには不適切だと思うよ
まず力を入れずに投げていた時代という指摘がおかしい
速い球を投げていながら怪我をしなかった選手を例に挙げているのであって、活躍した選手だから例にあげているのではない
古い投げ方で力を入れずに時速100マイルを出すことと、現代の投げ方で力を入れて(いるばかりとは限らないが)出す時速100マイルに一体なんの違いがあるのか
後者に価値があるとする理屈はあるのか
論点がずれているとしか言いようがない
例えば100年前の人間と現代の人間で骨格や靭帯、腱、筋肉などの構造に大きな違いがあるのならそう主張してもいいが、あるのか?
もし違いがあるのなら、一体どこがどう違って投球フォームのどのタイミングでどういう力が働くのか説明してくれ
ここではそれを論理的に説明している
そして、このサイトの他の記事にも度々登場するウォルター・ジョンソンだが、最新の人体工学(論文)の観点から見ても、肩と上腕の角度やひじ関節の角度等怪我をしにくいフォームであると、ここでは指摘している
これを不適切と主張するなら何か論理的な根拠を持ってそう主張するべき
ただ古い人物だからといって否定するのは全く科学的でなく、議論に値しない
見ていてわかり易く納得、すべてのピッチャーを志す人達にぜひ見て長く野球を楽しんで欲しいです(^。^)
ぐうの音も出ない正論
投球は軸足(後ろ足)を蹴って、
これはどうなのかな。
たしかに蹴ったほうがパワーは出るけれど、疲れやすくならないだろうか。
中継ぎやリリーフのような短いイニングの場合はいいのだろうが。
いい内容だと思うけれど、
投球は軸足(後ろ足)を蹴って、
これはどうなのかな。
たしかに蹴ったほうがパワーは出るけれど、疲れやすくならないだろうか。
中継ぎやリリーフのような短いイニングの場合はいいのだろうが
回答:
あなたのおっしゃる通りだと思います。
記事自体が古いので、今再検討してみると、真実は必ずしも正確だとはいえません。
速い球を投げる投手は、軸足を強く蹴っているように見えますが、事実は前足を強く蹴った結果、軸足が結果的に反射的に地面を強く蹴っているというのが正しい表現だと今はそう思っています。この方法だと省エネ的なピッチングができます。